泣ける映画からゾッとする映画まで
『涼』をとるならコレ!【映画日和8月号】

  • posted.2017/08/31
  • 山口拓巳
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泣ける映画からゾッとする映画まで 『涼』をとるならコレ!【映画日和8月号】

夏の暑さに負けそうなみなさん、映画なら涼しい場所でじっくり堪能できますよ。

映画が好きだけど、どんなものを観ようか悩んでしまうという方におすすめの作品を紹介する「映画日和」。

暇さえあれば映画を観ようとAmazonビデオを徘徊するmiteco編集部の山口と、静岡市唯一の単館系ミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」の副支配人のおふたりで毎月お届けしております。

これを読んで「映画が観たい!」と感じたら、その日が映画日和ですよ。

 8月号のテーマ「夏バテ防止に効果あり?『涼』がとれる映画」

今月のテーマは、夏の辛い暑さを吹き飛ばす「涼」がとれる映画。と聞くと、ホラー映画ばっかり浮かぶかもしれませんが、なんとなくゾッとしてしまうような映画はもちろん、ほろりと泣けてしまうようなもの、風景から涼しさが感じられるもの、映画にはたくさん「涼」の要素があるんです。

なので、ホラー限定じゃなく、涼める映画をということでいつものおふたりにお願いをしています。ミニシアター系ならではの、ちょっとゾクゾクする映画が楽しめそう・・・!

そして、今回の映画日和はなんと

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この日、取材同行をしていた吉松編集長も参加。

彼もけっこうマニアックな作品を観ているので、どんな映画を選ぶのか気になるところ。さて、今月も映画ファンが楽しめる映画紹介のスタートです。

 天才映画監督が描き出す「なんだか怪しい家族」

 

eiga_biyori_5_f3海野 じゃあ、今回は僕から。「どういう方向の『涼』にしようか」っていうのが今月は悩んで・・・。
eiga_biyori_5_f2 川口 そうなのよ(笑)
eiga_biyori_5_f3海野 で、ホラーにしようかとも思ったのですが、あんまりシネ・ギャラリーではホラーは上映していないので、カラー的に・・・。と思って、ちょっとサスペンス寄りで「人間模様が怖い!」というところで選びました。『トム・アット・ザ・ファーム』です。

『トム・アット・ザ・ファーム』

2013年 監督:グザヴィエ・ドラン

同性の恋人ギョームが亡くなり、その葬儀に参列するため、彼の故郷へと足を運んだトム(グザヴィエ・ドラン)。ギョームの実家で待っていたのは、ふたりの関係を知らない母と、すべてを知っているがそれを口にするなと脅してくる兄だった。ときに暴力的ですらある兄フランシスの脅しがエスカレートしていくなかで、トムはなぜかそこから逃れることを考えなくなっていく・・・。

eiga_biyori_5_f3海野 これは、グザヴィエ・ドランという方の作品なんですが、監督、脚本、主演を全部ひとりでやってるという・・・。もう完全な天才で、「2010年代でもっとも重要な映画監督」のひとりですね。彼が初映画監督をしたのは19歳のとき。その後も次々に傑作を生みだして、いまやカンヌ映画祭の審査員まで務めている方です。
eigabiyori8_f2 山口 それはぶっ飛んでますね・・・。
eiga_biyori_5_f3海野 こういうふうにひとりでやってしまう監督というと、ヴィンセント・ギャロが思い浮かぶんですが、決定的に違うのはドランには人が応援したくなってしまう「人たらし」的なところがズバ抜けているんですよ(笑)
eiga_biyori_5_f2 川口 なんでか応援したくなる。実際、アデルのMVを撮影したり、高級ブランドのモデルを務めていたりと、さまざまな人が魅了されているんだな、って思いますよね。
eigabiyori8_f2 山口 今回、選んだ『トム・アット・ザ・ファーム』は・・・。
eiga_biyori_5_f3海野 この映画は2013年、ドランが24歳のときの作品。ゲイの恋人を亡くした主人公のトムが、彼の故郷へ向かい、そこで葬式を見届けるというのが大筋です。たどり着いた彼の実家は酪農をする家、つまり「ファーム」なんですが、彼が恋人の母親と話してみるとなぜか友達として扱われてしまうんです。

 

そこで「自分がゲイだってことを告白していないんじゃないか」と勘づいて傷つくわけですけど、なにか理由があるのだろうし、自分も隠すんですね。

 

ところが、じつはお兄さんはその事情を知っていた。しかも、トムに「事実を話すな」と脅してくるんです。で、このお兄さんが・・・。

eiga_biyori_5_f3海野eiga_biyori_5_f2 川口 怖い・・・
eigabiyori8_f2 山口 シンクロするくらい怖いんですね・・・(笑)
eiga_biyori_5_f3海野 言葉での脅しはもちろん、暴力も使って主人公を追い詰めていくというストーリーなんですけど、だんだん精神を蝕まれていく描写がとにかく怖くて。

 

めちゃくちゃ異常な一家だというのはすぐわかるんですが、そこから逃れるどころか取り込まれてしまう。とにかく醸し出す雰囲気と、それに飲み込まれていくトムの行動に仰天しながら観ていただけると・・・。


これがその予告編でドラン本人が編集したもの。観てるだけで冷や汗をかきそうです。というか話の筋がまったく見えない・・・。

eigabiyori8_f2 山口 これは涼しくなりそうです。
eiga_biyori_5_f2 川口 この監督がすごいのは、こうした心理描写とスクリーンの映像そのものがあたかも同期しているかのように仕掛けをさりげなく入れ込んでくるところで。あるシーンでは画面が縦に半分くらいになっちゃうとか。
eigabiyori8_f2 山口 えええ。めちゃめちゃ違和感じゃないですか。
eiga_biyori_5_f3海野 それがそうでもないんです。僕たちは映写室から観てるので、客観的に見れて気づくんですけどお客さんのなかには「気づかなかった」という方もいるくらい。

 

こういうのが代表例ですけど、セリフじゃなくて雰囲気とか演出で「怖さ」を出してしまうのがもう・・・天才としかいえない。

※ヴィンセント・ギャロ:アメリカ人映画監督、役者、ミュージシャン。監督兼主演を飾った『バッファロー’66』はミニシアター系映画としては必ず名前が挙がるほどの傑作。

あのアクションスターがノーアクションで挑む「泣ける映画」

 

eiga_biyori_5_f2 川口 ゾクゾクするサスペンスの次に、すっごく泣ける話で恐縮なんですが、もの悲しい感じの涼しさとして『海洋天堂』という作品を選びました。これはカッコつけたな(笑)

『海洋天堂』

2010年 監督:シュエ・シャオルー

シンチョン(ジェット・リー)は自閉症の息子ターフーを持ち、水族館に勤務しながら21歳になる息子を男出ひとつで育ててきた。しかし、シンチョンはガンを罹っており余命が短いことを知る。心中を図るもうまくいかず、彼は息子がひとりでも生きていけるように、自分の最後の時間を息子の社会教育へあてることを決意する。

eigabiyori8_f2 山口 あまりアジアの映画って観たことがないのですが、この作品は。
eiga_biyori_5_f2 川口 これはとにかくうたい文句が「アクションスターのジェット・リーが、ノーアクションでヒューマンな作品に挑んだ」というもので、ほんとにワイヤーの1本も出てこない(笑)最初は「あのジェット・リーでしょ? アクションなくて大丈夫なの?」って思っていたんですが、これがどうしてなかなかいいんですよね。
eiga_biyori_5_f3海野 ジェット・リーはもちろんなんですけど、音楽は久石譲さん、カメラマンには名高いクリストファー・ドイルととにかく豪華な制作陣で、それに見合うくらい素晴らしい作品に仕上がっているんですよね。
eigabiyori8_f2 山口 クリストファー・ドイルって『HERO』のカメラマンさんでしたよね。それは構図とかも含めて気になっちゃうかも。
eiga_biyori_5_f2 川口 冒頭に父子で無理心中を試みるというシーンがあるんですが、ここでのカメラは半分地上、半分水中という構図で、観てて臨場感があるんですよね。こういう細かいところもあるんですが、ストーリーがよいのでそれを引き立てくれるような制作の仕方で。


予告編でもグッときてしまいます。

eiga_biyori_5_f2 川口 ジェット・リーといわれると、とにかくカンフーでバッコンバッコンやるイメージなんだけど、ギャップもよくて。この年に『エクスペンダブルズ』を公開しているので、アクション俳優と苦悩しながらいいお父さんをやるジェット・リーが両方楽しめたんです。
eigabiyori8_f2 山口 ちなみに川口さんはアクションをしてるジェット・リーも観ていらっしゃるんですか・・・?
eiga_biyori_5_f2 川口 いやあ、僕はジャッキー・チェン派なんだよね(笑)でも、『海洋天堂』はよかったですね。本当に悲しいストーリーなんだけど、そういう風には見せずにほのぼのとさせてくれる。水の描写も多いので「これは涼が取れるなあ」と思いました。

高校時代、一人ひとりの夏が青春が終わりを告げる

 

eigabiyori8_f1吉松 僕が選んだのは『青い春』という映画ですね。

『青い春』

2001年 監督:豊田利晃

男子校・朝日高校にいる不良グループの新3年生は、校舎の屋上で柵の外に立ち、何回手を叩けるかという「ベランダ・ゲーム」をしていた。誰よりも多く手を叩いた男が次の番長になれるからだ。この日、もっとも高い記録を出したのは、8回という新記録を出した九條(松田龍平)だった。不良の高校生たちそれぞれの「青春」を描き出す、熱くも切ない松本大洋原作の青春物語。

eigabiyori8_f1吉松 これはある高校生たちの1年を描く映画なんで、特別夏感があるかと言われればそうでもないのですが・・・。というかそもそもタイトル自体「春」ですし(笑)でも僕にとっては、「青春=夏」のイメージがあって、それで選びましたね。
eigabiyori8_f2 山口 『青い春』は松本大洋の原作だね。先月の『ピンポン』に引き続き2作連続登場。「涼」を感じるポイントとしては・・・?
eigabiyori8_f1吉松 これの「涼」はですね。「高校生たちの青春が終わっていく」というところだなあ、と
eiga_biyori_5_f2 川口 甲子園目指していた野球部のヤンキーが、結局行けなくてあるとき急にヤクザになっちゃうとかね。
eigabiyori8_f1吉松 そうです。そんな一つひとつの描写が細かいところも含めて、「あー、この人たちの青春が終わったなあ」と感じる刹那的なところに夏の終わりを感じまして。
eigabiyori8_f2 山口 ちょっとはかない感じって、ものすごく夏の終わりっぽいですね。たしかに。
eigabiyori8_f1吉松 そうなんですよ。なんというか、高校時代の「青春」って卒業とか自分が目指していたものが終わると終わりなんですよね。
eiga_biyori_5_f2 川口 「いまを生きている」という前向きな感じよりも「いまがすべて。この先はなんもない!」みたいなちょっと無茶な感じも含めて刹那。僕の学生時代はこの映画に出てくるようなやつらばっかりで。めちゃくちゃなことやるんですよね。そんで夏にやっぱり事件を起こしてた(笑)
eigabiyori8_f2 山口 ありますね(笑)ほんとに爆竹投げちゃうとか・・・。
eiga_biyori_5_f2 川口 夏休みにそれこそ盗んだバイクで発煙筒を集めて捕まっちゃうとか(笑)

 

僕はそういう人たちと一緒になってやることはなかったんだけど、「いまを生きてるんだぜ」っていうのがすごいあふれてて・・・ちょっとうらやましかったなあ。

eigabiyori8_f2 山口 ほんとになんでもいいんですよね。発煙筒を集めること自体にもとくに意味はないんです。そこがなんかカッコいいんですよね。あれは独特。ある種の無敵感があると思います。
eigabiyori8_f1吉松 それが終わるというのはなんとも切なさがある・・・。という話です。

カンヌ最年少主演男優賞、柳楽優弥の伝説的作品

 

eigabiyori8_f2 山口 じゃあ、最後になりますが僕の番ですね。毎回自分でテーマを出して自分で苦しむんですが、今回はパッと浮かんだのをそのまま出そうと思いました。『誰も知らない』ですね。これも『海洋天堂』じゃないですけど、ものすごく怖くて暗いテーマなんだけど、どこかほのぼのとしたような雰囲気すら感じさせる、そんな作品ですね。
eiga_biyori_5_f3海野 これは本当に問題作であり、傑作ですね。

『誰も知らない』

2004年 監督:是枝裕和

あるアパートに4人の兄妹と母が暮らしていた。母子家庭であり、それぞれの子どもの父親は違うという特殊な境遇にあるなか、母(YOU)は知り合った男性との同棲を始めるため、子供たちにお金を残して消えてしまう。残された子どもたちは長男の明(柳楽優弥)が面倒を見ながら学校にもいかず、「誰も知らない」生活をはじめた。

eigabiyori8_f2 山口 この作品はとにかくすさまじく内容が「怖い」。ホラー的な怖さというか内側から「うわぁ・・・」ってなっちゃうんですよね。とにかく臨場感というかリアリティがすごくて・・・。
eiga_biyori_5_f2 川口 是枝監督はもう、子供を扱うことに関しても天才的。
eigabiyori8_f2 山口 そのうえ、柳楽優弥の演技がすごい。この作品でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を最年少受賞。もう、鬼気迫るものがありました。だって、この作品は台本がないというのもすごいところで、それであの演技ですからもう想像を超える役作りだよな、と。
eiga_biyori_5_f3海野 だからリアリティを出せたんだとも思うんですけど、当然役者さんも結末が見えていないなかで撮影をしていて、お母さん役として出てくるYOUさんもビックリしたみたいですね。

 

「また来るね!」ってニコやかに演技してカットが入って「お疲れ様です! クランクアップです!」って言われたので、「ええ!? もうこの子たちのところにお母さんこないの?」って逸話もあったり。

eigabiyori8_f2 山口 観てる側としても、1回いなくなって「あー、もうこないのか・・・」なんて思っていたら、急に帰ってきたもんだから柳楽くんに感情移入してるのもあって、ものすごく安心するんです。なのに・・・。
eiga_biyori_5_f3海野 2度と帰ってこない。このダメージはキツいんですよね。これで一気に柳楽くんが演じる「お兄ちゃん」が弟、妹たちをだんだん守れなくなっていってしまう。ものすごく辛い感じになっていきます。
eigabiyori8_f2 山口 もう、僕は当時中学生でそれを観て・・・。ものすごい衝撃を受けたのはいまでもそうなんですが、あらためて観てみると、音楽がまた水や雨とマッチするようなものが多いし、全体的に静かで馴染むんです

 

これがどこか涼しさを感じさせるなあ、と感じたのが今回の選定のポイントですね。

eiga_biyori_5_f3海野 ゴンチチ(音楽を担当した大阪出身のアーティスト)の曲は本当におだやかで、それだけにもの悲しさが伝わってくるというか・・・。
eiga_biyori_5_f2 川口 この作品はじつは僕がはじめて映写を担当した作品でもあって・・・。かなり思い出深いんですけど、とにかくたくさんの方が観に来られて、当時の評判はものすごかったですね。是枝監督はこれを機に一躍大監督への道を進み始めます。
eigabiyori8_f2 山口 いま、日本を代表する監督のひとりとして大活躍していますから、ぜひ観たことない方は観てほしいですね。

暑さにちょっと疲れたら「涼」を感じる映画 観てみませんか?

いかがでしたでしょうか? ここから残暑の季節となりますが、まだまだクラクラするような日差しが照り付ける時期。そんな夜にはちょっと涼しくなるような映画を観るとよいかもしれません。

今回取り上げたのは、全部ホラーではありませんから「ホラーはちょっと」という方にもおすすめです。気分や好みによって今日観る1本の参考にしてくれると嬉しいです!

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