浜松のオープンスペース「田町スクエア」
セミパブリックとセミプライベートの間を行くあり方とは

  • posted.2017/05/10
  • mitecoライター
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浜松のオープンスペース「田町スクエア」 セミパブリックとセミプライベートの間を行くあり方とは

浜松駅から徒歩10分。田町と常磐町の境界線にある通りに「ぽつ!」と立つ物件が、このお話しの舞台「田町スクエア」です。1階はリビング兼オープンスペース、2~3階は住居となっています。

浜松に住んだ4年、この道はアルバイト帰りによく通り過ぎたので、かつて花屋があったことを私は覚えています。いつの間にか花屋はなくなっていて、私は気付かずにいて、いつかの夜、後輩が電動ドリルを持ってここにいて、ここに住むのだと言っていて、「このまちは面白いなぁ」と感じたのは夏のことでした。

一方で山間部で育ったもので、浜松の古いものがなくなり新しいものができる入れ替わりサイクルの早さに、あっけなさを感じていたこともあります。それまであったお店や家が知らないうちになくなり、いとも簡単に新しい姿になっているのです。

「これがまちで暮らすということなのか・・・」と考えているうちに田町スクエアはみるみるうちに出来上がり、まちに溶け込んでいきました。

そんな田町スクエアとはいったいなんなんだ? 主宰者たちにお話しを聞くことに成功したので、お届けします。

田町スクエアのはじまりはワークショップ

tamachisquare_01左から建築ユニット「+tic」鈴木陽一郎さん、同じく鈴木知悠さん、静岡文化芸術大学空間造形学科の岩田貴明くん。

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あんどう

「田町スクエアってなんだ?」というところをまず聞きたいのですが。
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陽一郎

ここはワークショップから出来上がった場所。もともと僕ら設計事務所をしている+tic(プラスチック)と、地元の静岡文化芸術大学の建築専攻の学生が一緒になって2015年の終わりくらいからやった「まちの新しい使い方ラボ」っていうワークショップから始まっているんだよね。
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あんどう

あ、そんなに前からだったんですね。そのワークショップはどんな感じのものだったんですか?
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陽一郎

身の回りにある空間資源をいかに再発見的な使い方ができるか、といったことに取り組んでた。「まちなかに空き家が多いなぁ」と思って、最初は中心市街地の空き家を調査していたんだよね。その過程で不動産募集の情報がないとか、どうやって借りたらいいのかわからないような空き家を見つけていった。

 

そういったものを僕らは「まちのブラックボックス」と呼んで、それらの使い方を考えることはまちにとって価値があるんじゃないかと。そのなかで、実際に実験的に使っていこうよという感じで田町スクエアを借りることになったかなぁ。

tamachisquare_02ワークショップで製作した空き家調査の資料。「めちゃめちゃ歩き回った・・・」と陽一郎さん。

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あんどう

なるほど。ここってもともとお花屋さんでしたよね。こうしたスペースを設けるのに、「ここだ!」っていう決め手はなにかあったんですか?
tamachisquare_face_02知悠 不動産に載ってない空き家を借りるということには、いろんな障壁があるんだよね。前の所有者が残した家財道具の処理とか、見ず知らずの人には貸せないとか、大家さんとか所有者にとっては「めんどくささ」みたいなのが結構多くて。ワークショップで見つけた複数の候補をあたってみた結果、そうした壁をクリアできたのがここだったっていう。
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あんどう

家財処理って大変そうですが、どうしたんですか?
tamachisquare_face_02知悠 普通に、分別して捨てただけだよ(笑)お花用の大きな冷蔵庫とか分解して。

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tamachisquare_face_02知悠 分解作業も面白くて、分解して学べるみたいな面もあったなぁ。それに大家さんもこの特別に大きい家財の処理をネックに感じていたみたいで、そういうハードルを乗り越えると、自然と信頼関係が築くことができた。ブラックボックスという見えない部分にアプローチしていったとき、ここに関わる人が見えてきた。その人たちと問題を共有し、同じ方向を目指すことが重要だと感じたね。

地域の人と学生の声

tamachisquare_04学生と一緒に傷んでいた壁紙を剥がし、天井を落としているところ。これによって空間が広くなったそうです。

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陽一郎

それに、いまみたいな「オープンスペースにしよう!」っていうのは当初から考えてたわけではないんだよね。ここいいなっていう感覚はあったけど。ちょうど花屋名残りの土間があって、路面で、ガラス張りで、とすでにまちへと開かれている空間があった。ここだったらライブとか展覧会とか、さまざまな使い方ができそうだなぁって。
tamachisquare_face_02知悠 でも、イベントとかをやるためだけに1軒借りるっていうのは、僕らも運営的に難しいところがある。だからまず最初に「学生を住まわせよう!」って考えた。そうすればとりあえず、この場所を継続させることができるから。
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あんどう

住人の家賃によって、大家さんへのバックアップは確実にできるようになるということですね。
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陽一郎

そうそう。それで1階をどんな風に使えるかって考えていこうと。専門的な考え方も取り入れながら、学生にも学びを得られるようにしたかったし。たとえば、大家さんのような地域の人と学生との新たな接点にもなったかなと思ってる。
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あんどう

なるほど。はじめて岩田くんに話を振りますけど、「ワークショップに参加しよう」とか「ここに住もう」って思ったのはどうしてですか?
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岩田

普通に家を探してました。賃貸でアパートを借りると高いじゃないですか。以前は大学の近くに住んでたんですけど、まちなかで同級生と集まるときとか、ちょっと遠いなって。まあ、あとは学外での活動にも興味があったので。
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あんどう

実際に住んでみてどうですか?
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岩田

うーん、生活的にはあまり変わらないですねー。
tamachisquare_face_02知悠 でもさ、生活の基盤は変わらないけど、周りからのアクセスの間口は結構広がってるよね。生活は変化させずに、ゆるっと地域とつながっていく感じは田町スクエアの特徴かもね。

田町スクエアのいまとこれから

私が田町スクエアに訪れた際には、ワークショップ「まちの使い方ラボ」の最終報告展として、「まちの新しい使い方展」が開催されており、トークイベントも行われていました。

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トークイベント「まちを見立てること」の様子。サイドの壁には、報告展の一部として大家さんへのインタビューやワークショップの活動報告が展示されています。

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あんどう

やっぱりこの1階の土間、いいですよね。今回のイベントみたいにカチッとした感じの田町スクエアは知らなかったです。何回かイベントにもお邪魔してますが、ゆるゆるしつつも「真剣に面白いことやってる!」ってイメージがあります。
tamachisquare_face_02知悠 そうそう。普通にここ、なにもやってないときは僕らのリビングだからね。でも外から見えるし、リビングにしてはオープンだから、あんまだらしない格好はしなくなった(笑)

tamachisquare_06普段の土間は譲り受けた家具などが置かれ、ご飯を食べたり作業をしたりするリビングになっています。

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あんどう

これからはどんな感じで使っていく予定ですか?
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陽一郎

運営ってほど体制はまだ整ってないんだよね。ケーススタディというか本当に実験中。どうなるかなー。
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あんどう

感じているのは、常に誰もが自由に出入りするオープンスペースっていう感じではないのかなぁと。ここリビングですし(笑)
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陽一郎

そうだね。セミパブリックとセミプライベートのあいだを行くスタンスかな。どっちでもない感じ。
tamachisquare_face_02知悠 セミのセミ(笑)
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あんどう

新しいスタンスですね(笑)
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陽一郎

いまちょうど、音楽家兼映像作家のえいちゃん(藤田栄一)がここに住んでるから、彼がラジオとかやったらいいよね(笑)
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あんどう

あ、作品上映会に行きました! 通りすがりの人も覗いてましたよね。藤田さんはどのような流れでここに?

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藤田さんがキューバ滞在中に撮りためた映像に、自身で制作した楽曲を合わせた作品の上映会の様子。

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陽一郎

ちょうどあの上映会からかな。僕が上映会のディレクションをしたつながりで、「レジデンス的に住まない?」って声をかけた。
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あんどう

なるほど。きっかけで結ばれたつながりが、さらに強くなっていくような場所になっていますね。これからどんな人がここを使っていけるのでしょう・・・。学生ってどうですか?
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陽一郎

そうかもねぇ。大家さんも、学生がここで学んでいくことにとても賛同して、応援してくれているよ。とくに僕らは仕事のなかで建築専攻の学生と関わりを持つことが多いから、そうしたつながりはこれからも持てたらいいなぁとは思ってる。
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あんどう

まさに岩田くんもそうですが、文芸大のなかでも空間造形学科の人たちは、わりとまちなかでなにかをしているようなイメージがあります。そのキーに、まちなかで活躍する建築系の先輩たちがいる。この田町スクエアや+ticの活動もそんなビジョンですか?
tamachisquare_face_02知悠 モチベーション的な話をすると、403たちが僕らが学生のころには街中でワークショップやトークイベントを開いていて、それが普通だと思ってたんだよね。でもいまはそんな先輩たちも呼ばれる側になったり、忙しくなったりしてそういう機会が少なくなってるなぁって気づいて。それなら僕らがって感じかな。モチベーションとタイミングが合って、最近はこうして形になっているよね。

 

※浜松を拠点に国内外で活躍する設計事務所403architecture [dajiba]。+ticの先輩にあたる。

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陽一郎

うんうん。学生と一緒にまちを調査していくのが僕らのやり方かな。まちの空き家みたいなアンタッチャブルな部分って、増えれば増えるほどまちが死んでいくみたいな見方もあるけど、僕らは肯定的な捉え方をしていきたい。
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あんどう

なるほど。私は専攻が違いますが、建築系の人にお話しを聞かせてもらうのがとても楽しいです。私にとっては発見ばかりで。浜松って建築系の人、多いですよね?
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陽一郎

多いよね。でも、浜松に限らず全国に建築家なんてあふれるほどいる。浜松はそれが見えやすいだけじゃないかな。大きいけど小さいまちだなって思ってる

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浜松は「見えやすいまち」。まさにそうだと思います。私は学生時代をここで過ごしたのですが、いろんな活動がとてもわかりやすいまちでした。どこかで見かけたり、誰かに聞いたり、まちなかを歩けば誰かに出会えるまちです。

そんなまちで、知らないあいだに閉じているお店や壊れていく家屋に、私は見て見ぬふりをしていました。誰かがどうにかしてくれると思っていたんです。そんななかで出現したのがこの「田町スクエア」でした。

単なるリノベーションではなく、まちと自分たちと他者とのつながり方を考える場所。そうしたことにマイペースかつ流動的に、とてもいいバランスで取り組んでいる活動だとインタビューを通して感じることができました。まちに住むということ、私は社会人になって浜松を離れましたが、新天地でなにか考えてみたいなぁと思います。

「なんかできたよね〜」と感じていた浜松の方々、田町スクエアはこんな場所なのでした。今後の活動は下記のサイトなどをご覧ください。気になる方はぜひ、実際に足を運んで覗いてみてください。

おまけ

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現在、田町スクエアに住んでいる音楽家兼映像作家の藤田栄一さんによって、インスタグラム(@tamachivideo)でリビングの様子を覗けるようになっています。成人男性3人の映像と選曲のマッチが絶妙なのでぜひ音アリで。

藤田さんの個人アカウント(@eiichi_fu)では暮らしの様子も垣間見ることができます。キッチンでギターを弾いているのには笑ってしまいました。私は弾かれたくないです。

写真提供:+tic、岩田貴明、藤田栄一

浜松の田町という場所について

田町スクエア

住所:〒430-0944 静岡県浜松市中区田町228-11
メールアドレス:mail@plus-tic.info
HP①:http://plus-tic.info(+tic)
HP②:http://www.eiichi-fujita.net/archive(藤田栄一)